【術後診察】
退院から一週間、術後診察のため病院へ向かった。術後診察の予約は退院時にしておいた。お腹には腹腔鏡手術の3カ所の傷跡があり、その中で最も大きい臍部の傷跡はつっぱり感があるものの、痛みは徐々に和らいでいる。「臍の形が変わってしまいました」と担当医に伝えると「少し寄せておきました」と返答があった。形状の調整が可能であったのか?おっさんの臍の形に特に希望はないけれど。
術後の体調はおおむね良好で、便通も快調である。便秘や下痢、納豆を食べた時のアンモニア臭のあるオナラに悩まされることもなくなった。おそらく、虫垂に巣窟っていた悪玉菌の影響であろうと素人ながら推測している。
担当医から入院時に聞いていた大腸内視鏡検査についての説明があった。急性虫垂炎の原因となった何らかの可能性を含め、このタイミングで検査を受けることを勧められた。もちろん二つ返事で検査をお願いした。50代となれば一度は内視鏡検査をしておいた方がよいはず。春の健康診断で、大腸がん検診の便潜血検査を受けているが問題はない。しかし、時として便秘気味になったり、急な下痢があったりと、加齢による腸内フローラの変化が気になっていた。
「健康のためなら死んでもいい」というパラドックスな格言があるが、私はそこまでの健康ヲタクではない。サイドFIRE民となった今では仕事が忙しくて病院に行く時間がない。ということはない。自分の体調と健康は仕事よりも常に優先されるべきである。かつての社畜時代には、歯科に行く時間が確保できず、ようやく時間が取れても予約が取れず。結局治療が遅れて差し歯になってしまった歯がある。
看護師から検査についての説明を受けた。検査前日の朝食から検査食を摂り、当日の朝は絶食となる。そして、検査開始前には2リットルの大腸洗浄液を2時間かけて飲み、胃から大腸にある消化物をすべて排出する必要があるとのこと。確かに2リットルは多いが、や台ずしの生ビールのピッチャー(1.4リットル)を考えれば余裕である。大腸検査食「エニマクリン」は、院内の売店か、近くの調剤薬局で購入してくださいとのこと。意外に高く1,944円(税込)であった。
【検査前日】
検査前々日は、食べたいものを食べておかないと検査後の晩飯まで食べられなくなってしまう。しかし、食べ過ぎは胃腸に負担になるので、潔く普段通りの食事で済ませる。
そして検査前日。この日の食事は「エニマクリン」のみだ。朝食は鯛がゆ。まず、味が薄い。お粥はぐたぐたに煮た広東粥に皮蛋(ピータン)と、できれば油条(細長い揚げパン)を少々入れたものをお願いしたい。日本風の鯛がゆではどうしても物足りなさを感じた。
昼食は和風ハンバーグと白がゆ。ハンバーグはにゅるっとした食感で、口の中に入れると一瞬で溶けてしまった。白がゆは言わずもがな、味気ない。低繊維、低脂肪で消化の良い食事であることはわかるが、とにかく味気なく物足りない。だが、水やお茶は飲み放題。コーヒーや紅茶、スポーツドリンクも問題ない。ただし、牛乳などの乳製品や果物(種や繊維が問題)は摂取不可である。
お楽しみは間食のおやつ。ゼリーミールとグリコのビスコだ。ゼリーミールはりんご風味だが、なんとも頼りない味。しかし、ここまで来るとビスコがとても美味しく感じられる。ビスコを食べるのは何年ぶりだろうか?子供が羨ましそうに欲しがるが分けてはやらない。
さて、午後3時となり、いよいよ下剤の服用を開始する。まずはマグコロール散68%分包50g。大腸内視鏡検査の前処置用下剤だ。紙コップに水150mlを入れ、粉末を溶かす。甘みは少ないが、濃いめのポカリスエットのような味だ。主成分はクエン酸マグネシウムで、薬効分類は塩類下剤。便の水分バランスを調整し、排便を促す薬とあった。
今日は自宅で過ごしている。そもそも在宅ワーカーなので、体を動かさなければ完全に運動不足になる労働環境だ。もし社畜時代だったら、こんな食事内容では空腹に耐えられていなかっただろう。
夕食はコーンポタージュ。これが最後の食事だ。ポタージュという割にはさらっとしていて、本当にこれだけ?という内容と量だ。仕方がないが3食約2,000円の満足感はない。しばらくするとぐるぐるとお腹がなり、一回目の排便があった。これから排便人生が始まるかと思うと気分が萎えてきた。
お次は就寝前の下剤の服用。小さいプラスティック容器に入ったピコスルファートナトリウム内用液0.75% 「JG」 10mL。刺激性下剤である。小腸や大腸などを刺激することで排便を促すとあった。内視鏡大腸検査の前処理、腸管内容物の排除とある。とにかくすべてを排泄しなさいということだ。全量をコップ一杯(約200 mL)の水に入れて飲み干す。改めて薄い塩水を味わうつもりはもうない。夜中に目が覚めての排便。徐々に体力が奪われているような気がしてきた。
【検査当日】
空腹で目覚める。もちろん朝から絶食である。空腹をまぎらわすため、水やお茶を飲んでいるとゆるい排便があった。8時半までに受付に到着しておく必要があるので、暑い中、時間をかけ病院へ徒歩で向かう。車で行きたいところだが、検査中に鎮静作用のある薬を使うため、帰宅時に乗り物を運転することができない。
問診表を提出し、受付を済ませる。パーティションで囲われたスペースに案内され、排便のために使用する専用トイレが割り当てられた。出たり入ったりと本日お世話になるマイトイレである。見回すと個室トイレのドアが8つほど並んでいる。考えなくとも不思議な光景だ。
検査前の体調と薬剤の服用の確認、そして体温、血圧検査、採血があった。そして登場したのが腸管洗浄剤「ニフレック配合内用剤」であった。主成分は塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、無水硫酸ナトリウム。文字面を見るに美味しくなさそうである。液便を排泄することで、腸管の内容物の排除と洗浄が目的とあった。
薄い塩味の美味しくない液体を200mLを紙コップに入れ、10分ほどかけてゆっくりと飲んで行く。生ビールだったらどんどんいけるはずだ。生ビールをたぷたぷとピッチャーでダイレクトに飲むのが楽しい。だが美味しくない液体である上、途中の排便タイムがあるのでペース配分が重要。遠くのテレビをぼーっと見たり、スマホをいじる。テーブルが使えるのであれば、パソコンか本を持ち込むべきであったが、今さら仕方がない。その間にもマイトイレに出たり入ったり。手を洗って出ようとすると、ぐるぐると便意を催す。排便人生。
10回ほど便座に座っただろうか。排便の固形物が少なくなり液状に近づいた。色は胆汁の薄い黄色。そして肛門からぷしゅーと腸管洗浄液を噴射できるようになった。なかなかできない経験である。ぷしゅーでミッションコンプリート。早速、看護師に報告するが内視鏡検査の開始は午後1時以降で順番待ち。逸る気持ちを抑え、残りの腸管洗浄液を飲み切った。
ほどなくして、看護師より検査着に着替え、その後に点滴をしますと案内があった。上着は長めで前開きのよくある検査着だが、ズボンは専用の使い捨ての検査用パンツ。濃い紺色の厚めの素材で透けにくいとある。注腸検査、肛門検査、内視鏡検査に使用するため後ろにスリットが入っている。こんな製品があるのは知らなかった。わざと後ろ前反対に履いて行けば、間違いなく看護師から厳しく叱責を受けるやつだ。もちろんそんな根性はない。そんなことはテレビでうるさい自称芸人にやらせておけばよい。くだらない。
さて、もうおなじみなったソルデム1輸液 500 mL の点滴バッグをぶら下げる。トイレへ行くときも一緒に行動が基本。入院時に学習したので引き連れて歩くにも慣れている。しばらくして名前が呼ばれた。検査の順番がようやくまわってきたようだ。
【大腸内視鏡検査】
内視鏡検査専用の検査室が並ぶフロアへ移動。ここへは春の健康診断で胃と食道の内視鏡検査で来ている。私はバリウム検査(胃透視検査)ではなく内視鏡検査を選択している。鼻から内視鏡を入れらえれ、脂汗をかき、涙と鼻水と唾液をたらしながらの拷問検査を年1回受けている。バリウム検査で思わしくない結果が出て、再び内視鏡検査を受けたのでは効率が悪い。初めから追加の検査料を払って、多くの情報が得られる内視鏡検査の方が合理的である。だが今回の大腸内視鏡検査は初めてだ。どれくらいの拷問度合かはわからない。
検査台に横たわると、左の人差し指にパルスオキシメーター、右腕には血圧計が取り付けられた。そして左を向いて横たわる。担当医より「それでは始めます」と、肛門にぐるっとグリセリンが塗られ、黒い内視鏡が突っ込まれた。頭上のモニターに大腸内部の映像が写し出された。
第一関門は直腸S状部だ。イラストで示されても、臓器の位置と大きさを立体的に把握することは素人には難しい。イラストは国立がん研究センターのサイトより勝手に拝借した。内視鏡を前後させながら奥へと奥へ入ってゆく。所々で痛みを感じる。オナラがたまって移動する時に痛み感じる場合があるので、大腸は痛みに対してはすごく敏感なのであることがわかる。体を正面にして足を組んだり、再び左にしたりと、曲がった立体構造の大腸に管を通して行くのは容易ではない。もし、検査中に腫瘍やポリープなどが見つかった場合、組織検査や切除治療を行うことがあるとのこと。
痛みで「うげっ」と声を上げる。もう勘弁してくれとぐったりした頃に、やっと盲腸、小腸の入り口周辺に到達した。リアルタイムの映像で見ることができるのは面白いが、時として痛みを伴うのが難点だ。
虫垂は切除されて、縫合部周辺を見ることができた。手術後の縫合部を内部から確認できるので、担当医も安心できるのではないだろうか。盲腸や虫垂周辺には腫瘍やポリープは見られず。一安心であった。内視鏡は一度奥まで到達させた後、内部を観察、撮影しながら引き抜いて行くのが基本のようだ。お腹の中で内視鏡のコードが動くのがわかる。肛門が痛い。追加でグリセリンの塗布をお願いした。行きはツラいが、帰りはラクなのが救いだ。20分の長い検査時間がようやく終わった。
【おわりに】
さすがに検査後はぐったりして、しばらく別の寝台で休憩させていただいた。胃の内視鏡検査よりも拷問度合は高くつらいものであった。担当医から映像を見ながらの結果説明では、特に問題ありませんとのこと。一安心である。強いて言えば子供の頃からある肛門の内部の「痔」の存在をモニタで確認できた。悪化すれば軟膏での対処療法となるようだ。便秘の硬い便、座りすぎ、冷えには気を付ける必要ありとのことだった。
健康のためなら死んでもいいというが、FIRE民は体調と健康を第一に考えることができる。マイクロ法人のおかげで、個人・法人を合わせて一世帯・年間 約83,000円の健康保険料。今回、医師により内視鏡検査が必要と判断されたため保険適用となった。検査料は協会けんぽで3割負担の5,220円。大した額ではないが、通常の健康診断での検査であれば全額負担になっていただろう。やはりマイクロ法人はサイドFIRE民にも優しかった。
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